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主要LPWA規格をマッピングする ~LPWAの3分類~

2021.04.01

IoT技術解説

セルラー系LPWA


 ソナスの滝澤です。

 先日、Webセミナー「LPWA規格11種を一挙紹介 ~IoT無線に悩む貴方に~」を開催させていただきました。その名の通り11種ものLPWA規格を(かなり駆け足になりましたが)紹介するもので、おかげさまで昨年から始めた弊社Webセミナーで過去最大の参加者数と相成りました。
 今回はそのWebセミナー内でご紹介した、主要なLPWA規格のマッピングと分類をご紹介したいと思います。

 

主要LPWA規格のマッピング

 以前の記事で、LPWAというのはLow Power Wide Areaの略で低消費電力で長距離通信が可能であればLPWAと名乗ったり呼ばれたりするということを紹介し、以下のような図を掲載しました。

 

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 今回の記事では、この図のLPWAと書かれた領域の中身について具体的に考えていきたいと思います。

 通信速度と通信距離は、各規格のスペックとして公表されている値を参照しています。過去の記事で解説したように、通信速度については物理層の伝送速度、送信可能時間まで考慮した通信速度、制御用データまで考慮した通信速度といった複数の尺度がありますが、通信規格のスペックとしては基本的に物理層の伝送速度の値が公表されているためそれを共通基準とします。

 今回マッピングするのは、以下の11種類の規格です。
 一緒に記載してある周波数帯、トポロジー、提供形態の分類については先にも挙げたLPWAの解説記事LPWAの比較の際の注意点の記事をご参照ください。

 

 

 これらを通信距離-通信速度(伝送速度)でマッピングしたものが以下の図になります。
 なおグラフの両軸は通信速度、通信距離ともに対数表示となっており、値の近い規格を並べて配置するためグラフ上の位置は正確なものではなく、相対的な傾向を掴むための大まかなもの、とご理解いただければと思います。

 

 

LPWAを分類する

 この図を見ると、LPWAは概ね以下のように分布していることが分かります。

  1. 速度と通信距離を両立しているライセンスバンドLPWA
  2. 低速だが遠距離と通信可能なスター型トポロジのアンライセンスバンドLPWA
  3. 高速で通信距離は短いがマルチホップでカバーするアンライセンスバンドLPWA

 本稿では、これらを以下のように名前を付けてグループ分けしたいと思います。

  1. セルラー系LPWA
    LTE-M、NB-IoT、LTE Cat.1
  2. 狭帯域型LPWA
    LoRa WAN、SIGFOX、Eltress、ZETA
  3. (ミドルレンジ)マルチホップ型LPWA
    SmartMesh、Wi-SUN FAN、SmartHop、UNISONet

先ほどの図にこれらの分類を追記したものがこちらです。

 

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 以降は、上記の分類について特徴を説明していきます。個々の規格についての紹介は別途記事を投稿する予定です。


1. セルラー系LPWA

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 セルラー系LPWAについては以前に各規格の解説記事を投稿してありますので、そちらもご参照ください。

 

セルラー系LPWA ~LTE-M、NB-IoT、LTE Cat.1~

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セルラー系(ライセンスバンド)LPWAの3つの規格、LTE-M、NB-IoT、LTE Cat.1の概要を解説します。 LTEという同じ技術をベースにしている規格.....

 LTEをベースとしており、他のLPWAに比べて通信速度はMbpsオーダーと高速で距離も通常の携帯電話と同様に飛びます。
 これらのスペックで見れば高頻度・大容量のデータを扱うならセルラー系一択で良いということになりそうですが、実はそうもいかないのがコストの問題です。

 セルラー系LPWAは従量課金となっており、例えばLTE-Mの料金はだいたい1キロバイトあたり0.5円前後が相場のようです。この場合1回に100バイトのデータを送信するとして送信頻度が30分に1回であれば月70円ほどで済みますが、10秒に1回になると月1万円を超えてしまいます。また通信速度を活かして30キロバイトの画像データを送ろうとする場合、1時間に1回撮影で月1万円を超えます。

 キャリアのプランによっては扱うデータ量が多い前提のバイト単価がもっと低いプランもありますが、それでも先ほどの計算で月額1万円を超えたのが数千円に抑えられる程度です。
 これだけのコストが1回線=1ノードあたりに掛かってくるということで、実はセルラー系LPWAの用途としてはスペックを活かして高頻度・大容量のデータを送信するよりも、次に述べる狭帯域型LPWAと同様に低頻度・小容量データを扱うケースが想定されていると言えます。


2. 狭帯域型LPWA

 

 ここに分類されるLPWAは、いずれも利用する周波数帯域が他の無線通信規格に比べてかなり狭いという特徴があります。
 周波数帯域が狭いということは、電波信号に一度に載せられる情報が少なく低速である代わりに、他の電波の影響を受けにくく低感度で受信しやすい、というメリットがあります。

 その他にもより省電力化して遠距離通信を行うために1パケットあたりのデータサイズを小さくしたり、下り(基地局⇒端末)方向の通信を制限したりしている場合が多く、機能や性能をかなり割り切った通信規格群といえます。

 従って扱えるデータは低頻度・小容量のデータになり、そういった用途であればコストや消費電力の面で極めて強い、というグループになります。
 LPWAの草分け的な規格であるLoRa WANとSIGFOXがここに含まれるように、一般的にアンライセンスバンドのLPWAとしてイメージされるのはこの分類かと思います。

 なお、この中でZETAは唯一のマルチホップ型の規格です。次に述べるマルチホップ型に近い部分もあるのですが、最大の特徴が2kHzという他の狭帯域型に比べてもずば抜けて狭い帯域を利用することであり、性能的に他のマルチホップ型とは立ち位置がはっきり異なるため、ここではより近しい狭帯域型に分類しています。

 

3. (ミドルレンジ)マルチホップ型LPWA

 

 この分類のLPWAは名前の通りいずれもマルチホップ型で、通信速度を確保しつつ通信距離についてはマルチホップによってカバーするアプローチを取っています。前述の通りZETAが狭帯域型のマルチホップとして存在するため、セルラー系と狭帯域系の中間の速度ということで「ミドルレンジ」という括弧書きを加えています。

 マルチホップ型のLPWAではローカルなネットワークを構築して、ゲートウェイがLTE・WiFi・有線LANなどを通してインターネットや外部に接続します。すなわち、複数のセンサーノードから発信されるデータを一本の回線に集約できます。
 そのため、セルラー系LPWAよりも高頻度・大容量のデータをコストパフォーマンス良く扱えることが期待できます。

 現在LPWAと言えば一般にはセルラー系LPWAか狭帯域型のLPWAのシェアが大きいですが、IoTの適用範囲が広がっていく中でミドルレンジのマルチホップ型LPWAのニーズも増えていくと思われます。
 例えば1秒間に100回以上の頻度の計測で得られた振動データを無線収集する無線振動計測は、弊社のUNISONetを用いた主力のソリューションとなっています。

 

終わりに

 本記事では、主要なLPWA規格11種を通信距離と通信速度の軸でマッピングし、その分布からセルラー系LPWA、狭帯域型LPWA、マルチホップ型LPWAの3種類に分類しました。

 一口にLPWAと言っても様々な規格があり、分類の切り口も複数あって各規格をどのように比較して良いか分からない、という方は多いと思います。今回のマッピングと分類は、そのような状況にある程度の見通しを与えられるのではないでしょうか。

 例えば、数バイトのデータを1日数回送るだけであれば狭帯域型LPWAを、広域に点在するノードから定期的に送信するのであればセルラー系LPWAを、特定のエリア内で複数ノードから高頻度または大容量のデータを収集するのであればマルチホップ型LPWAを、といった風にある程度方向性を絞った上で、同じ分類の中で個々の無線規格の比較検討を行う、というアプローチが出来ると思います。