SONAS IoT/DX Lab ソナス社員によるIoT・DXに関する
技術や事例解説ブログ

IoTの通信技術、LPWAとは

2020.07.08

IoT解説

IoT技術解説


 ソナスの滝澤です。

 今回はIoT(Internet of Things)の通信技術を解説したいと思います。

 あらゆるモノをネットワークに接続するために、無線通信技術はIoTにほぼ必須の技術です。しかし、WiFiやBluetooth、あるいは4G・5Gのモバイル通信といった我々に親しみのある通信技術は、PCやスマートフォン・タブレット等を接続することを前提に発展してきたため、IoTが求める特性と乖離が生じます。
 そのためIoTに適した通信規格が各所で考案され、今現在も多くの通信規格が存在しています。

 特に低消費電力で広域の通信が可能な通信規格はLPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれ、IoT用のネットワークの本命としてここ数年で注目を浴びています。
 今回はこのLPWAについて、解説していきます。

 

 

IoTに求められる通信技術の特徴

 まずはじめに、IoTに求められる通信技術はどのような特徴があるべきか考えてみましょう。
 「あらゆるモノがネットワークに繋がる」ということは、すなわち「あらゆるモノに通信機が組み込まれる」ということと言えます。それらの「モノ」は必ずしも電源に繋がれているとは限りません。また、IoTには形あるモノ以外に環境中に気温・湿度・明るさなどを取得するセンサーを配置するというパターンもあります。これらが通信を行うためには、バッテリーで動作することが前提になります。
 無数にあるモノやセンサのバッテリーがすぐに切れてしまい電池交換や充電をして回るといったことは現実的ではないため、一般的にIoTでは省電力性が強く求められます

 一方で、センサが測定した温度データやモノに対しての操作コマンドなど、IoTでは一度にやり取りされるデータは小さいことが多く、PCやスマートフォンを繋ぐWifiの通信容量・通信速度はオーバースペックになります。

 従って、IoTに求められる通信技術の特徴は低速・低消費電力ということで、下図のように通信距離-消費電力と、通信距離-通信速度の軸で各通信規格を比較したとき、グラフの下側にある通信規格がIoTに向いているということになります。


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  ただしこれらはあくまで傾向の話であり、電源が供給され電力の心配がいらないケースや画像や動画を送信するため通信速度が求められるケースなど、例外も存在します。
 そのため、各通信規格の特性を知り、実際の用途に応じて適切な通信規格を選択することが重要になります。

 

LPWAとは

 LPWAとは「Low Power Wide Area」の略で、先のグラフの右下にある、低消費電力で長距離の通信が可能な規格の総称です。
 無線通信において、電力消費を抑えるには大きく二つのアプローチがあります。一つは通信距離を短くすることで、送信電力が弱ければ遠くには届かなくなるというのはイメージしやすいかと思います。
 もう一つのアプローチは通信速度を遅くすることです。デジタル無線通信では何らかの方法で電波の波形に0と1の情報を載せて送信しますが、このとき単位時間あたりの波形にどれだけの密度で0と1を載せるかで、通信速度が決まります。0と1の密度が高いと通信速度が速い代わりにノイズに弱く、遠い場所で正しく受信することが難しくなります。逆に0と1の密度を低くすることでノイズに強くなり、低い電力でも遠くで信号を正しく受信することができます。
 LPWAは速度を遅くした代わりに、低消費電力で遠距離通信が可能な通信規格になります。厳密な定義はなく、屋外の利用が前提で通信距離がだいたい数百m~数kmあれば、LPWAと自ら名乗ったり呼ばれたりしている状態です。


ライセンスバンドとアンライセンスバンド

 LPWAの大きな分類として、ライセンスバンドとアンライセンスバンドの二種類に分けられます。文字通り、使用するのに免許が必要な周波数帯域を利用するか免許不要な周波数帯域を利用するかという分類です。

 テレビやラジオ放送など無線通信に限らず、空中を飛び交う電波は公共の資源として電波法によって周波数別に用途と利用者が決められています。例えば携帯電話では700MHz~3.5GHzの中のいくつかのバンド(周波数帯)が、ドコモ・KDDI・ソフトバンクといった免許を取得したキャリアにそれぞれ割り当てられています。このように公的機関の免許が必要な周波数帯を利用するLPWAのことをライセンスバンドのLPWAと呼びます。また、必然的に携帯電話(セルラー)キャリアが扱うことからセルラー系LPWAなどとも呼ばれます。

 ライセンスバンドのLPWAはLTE Cat.1LTE-M(eMTC、LTE Cat.M1)、NB-IoT(LTE Cat.NB1)の3つが挙げられます。これらは名前の通りLTE(≒4G)の一部として標準化された規格で、今後は5GベースのIoT向けの通信規格が登場すると見込まれます。

 一方でWiFiやBluetoothなど、免許を持たない個人が自由に利用している規格もあります。これは、2.4GHzや900MHzといった一部の周波数帯がISM(Industry:産業、Science:科学、Medical:医療)バンドと呼ばれる免許不要の帯域として設定されているためです。これらの免許不要の帯域を利用するLPWAが多数存在しており、アンライセンスバンドのLPWAや非セルラー系LPWAと呼ばれます。

 アンライセンスバンドのLPWAはLoRaSigfoxの2つがメジャーな規格として挙げられ、他にもスマートメータ―の通信規格として普及しているWi-SUNやソニーが開発したELTRES、近年国内でアライアンスの活動が活発なZETAなど多数存在します。弊社のUNISONetも2.4GHz帯と900MHz帯を利用しており、アンライセンスバンドに属します。


ローカル5GとLPWA

 ライセンスバンドの説明で5Gに少しだけ触れましたが、昨今ではIoT向けの通信技術として、LPWAと並んでローカル5Gが注目されています。
 ローカル5Gはこれまで通信キャリアが設置・運用していたモバイル通信の設備を、場所限定でキャリア以外の事業者が免許を取得して自営で設置・運用するものです。
 ではこのローカル5GとLPWAはどのような関係にあるかというと、現時点ではローカル5GとLPWAは別物と考えられます。

 5Gでは要件として高速大容量通信(eMBB:enhanced Mobile Broadband)・超高信頼低遅延(URLLC:Ultra-Reliable and Low Latency Communications)・多数端末接続(mMTC:massive Machine Type Communication)の3つが掲げられています。
 これらの要件は一つの通信規格としての同時達成を目指しているのではなく、それぞれに特化した規格を5G標準としてまとめる形で策定が進められており、現在商用利用が始まっているのは高速大容量通信(eMBB)のみで、超高信頼低遅延(URLLC)と多数端末接続(mMTC)はこれからといったステータスになります。
 これまでIoT向けと言われていた、低速で良いので低消費電力が求められる領域は多数端末接続(mMTC)が該当しており、通常の携帯電話と同じ高速大容量通信(eMBB)を想定している現時点のローカル5Gは低消費電力(Low Power)とは言えません。今後5GベースのIoT向け通信規格が利用可能になると、ライセンスバンドのLPWAと呼べるようになります。

 ただしその場合もモバイル通信キャリアのサービスとして提供される場合とローカル5Gとして自営で利用する場合の両方のパターンが考えられ、結局のところ5Gとローカル5Gの違いはLPWAかどうかという点には関係ないと言えると思います。


提供形態による分類

 周波数帯以外に、利用者側の観点ではネットワークの提供形態で大きく2つに分類できます。ここでは「基地局サービス型」と「個別NW構築型」と呼ぶことにします。


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 基地局サービス型は、携帯電話と同じように通信事業者がバックボーンネットワークと基地局を設置・運用していて、利用者は通信端末のみを用意して事業者のサービスとしてネットワークを利用する形態です。基地局の設置に負担がない代わりに、端末毎に通信費用が課金されます。
 主にライセンスバンドのLPWAが該当しますが、アンライセンスバンドのLPWAでもSigfoxはこちらのサービス形態をとっています。また、NTT Docomoは一時期LoRaのゲートウェイまでをサービス提供するメニューを用意していました(2020年3月でサービス終了、現在は後述の個別NW構築型のみとなりました)。

 個別NW構築型は、基地局(親機)と端末(子機)の両方を利用者側で用意し、その通信規格のネットワークを個別に構築して利用する形態です。基地局まで利用者のものとなるので、端末~基地局間の通信に課金されるといったことはありません。
 基地局(親機)までで閉じたネットワークとして利用することも可能ですし、基地局(親機)をゲートウェイとして(あるいはゲートウェイに繋げて)バックボーンネットワークに接続することも可能です。
 Sigfox以外のアンライセンスバンドのLPWAはこちらに分類されますが、事業者のサービスとしてバックボーンネットワーク(+管理システム)が一緒に提供されることもあります。特にLoRa Wanは各モバイル通信キャリアやソラコムなどのIoTプラットフォーム事業者がメニューを用意しています。

 弊社のUNISONetも個別NW構築型で、ベースユニット(親機)にPCを繋げたクローズドなシステムから、ゲートウェイからお客様のLANに繋いでサーバと通信したり、ゲートウェイから弊社手配のモバイル回線で弊社のクラウドサービスに接続したりなど、様々なパターンで提供をしています。

 

まとめ

 今回はIoT向けの通信規格、特にLPWAについて解説しました。
 個人的にLPWAの話で一番分かりにくいのは、技術そのものよりも前述のようにサービスとしての提供形態が違うものが同じLPWAという括りにされていることだと感じています。特にアンライセンスバンドなのに基地局サービス型で提供されているSigfoxと、通信キャリアのIoTサービスメニューに載っているLoRaが厄介です。
 通信規格を比較する際は技術的な特性の他に、「その通信規格はどのようなサービス形態で利用できるか」を気にすると良いと思います。

 今回は具体的な通信規格についてはほぼ名前だけ挙げるに留まりました。次回記事では、数あるLPWAの概要と特徴を、ざっくりとですがまとめて紹介したいと思います。